今後のVR市場の市場予測と雑感(IDCとCanalys)


今年2018年はAR/VRの新しいプロダクトやアプリが多く投入され、注目の年になりそうです。そんな動きを察してか、2つの米国の調査会社が今年はいってすぐ将来のデバイス販売市場の拡大予測を出したのでちょっと見てみましょう。


1.IDC Japan
https://japan.zdnet.com/article/35113310/

調査会社のIDC Japanは1月16日、AR(Augmented Reality)/VR(Virtual Reality)ヘッドセットの2021年までの世界/国内出荷台数予測を発表しました。


1-1.世界・国内の売上予測(17-21)

売り上げは台数で紹介されていますが、2017年はAR/VRの専用ヘッドセットデバイスが合わせて世界で960万台を売り上げ、2021年には5920万台を売り上げると予測しています。4年で、6.5倍の市場にこれから膨張するとのことですね。本当なら、新規参入も今後増えてきそうです。実際、中国のパソコンメーカー、Lenovoが名乗りを上げています。

シェアを見るに、ARはかなり低く、全体のうち3~7%程度。残りの9割以上はすべてVRデバイスとのこと。

ARが主流だといわれているのに、なんで?とういことについては雑感で後述するとして、ここではIDCの説明を見ましょう。

ちなみに、ヘッドセットデバイスと表現しているが、いろいろな呼ばれ方があって、日本だとヘッドマウントディスプレイ(HMD)とよく呼ばれています。アメリカでは定義固まっているかは不明ですが、HUDと呼ばれているのも見ます。ヘッドアップディスプレイのことだそうです。


さて、日本の市場も見てみましょう。下にある表です。出展は同じIDC。


https://japan.zdnet.com/article/35113310/

国内のAR/VRヘッドセット出荷台数の予測では、2021年に出荷されるヘッドセットの合計は、2017年の30万台の約3.6倍となる108万台に達するとあります。内訳は、ARヘッドセットが8万台、VRヘッドセットが100万台。

外枠にあるNoteを見るとVRヘッドセットはすべてカウントしているので、PSVRなんかも、この中に入っている計算ですね。

ちなみに、今年話題をかっさらっていくのは、スタンドアロン型、すなわち、パソコンのスペックに依存しないVRだといわれています。

なので、上の表にも、スタンドアロン型と、従来のパソコンで出力してケーブルでつなぐ型の2つが書かれていますが、スタンドアロン型の成長は、1.5%から4年後も2.4%のシェアになるなど、非常にポジティブではない予測をしています。

これはどうゆうことでしょう。

なお、スクリーンレス型とは、名前からわかりづらいですが、要はスマホAR・VRです。スクリーンにスマホを使うギア媒体、サムスンVRギアのような製品のことです。GoogleのPixelに使う、DayDreamなどもそうですね。あくまでギア単体は安いので、市場的にはそんなに高くないです。なにせ、ただの箱。アクセサリー。


1-2.AR/VRの用途

プレスニュースには書かれていませんが、別のニュースによるとIDCでは、どの用途で売り上げが伸びるかも書かれているようです。

「世界市場は2021年まで年98.8%と倍々ゲームで拡大。一方、国内市場は年36.5%のペースだが、組み立て製造やプロセス製造に限定すると年7割増で成長する。」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/010900605/011000006/?rt=nocnt

とのことです。

今、AR/VRの産業利用にもっとも目を向けているのは、自動車など製造業界。製造段階前の設計フェーズにおいて、既に作成してあるCADデータを使って、これをARにより、視認しながら検証したり、VRを使って、研修に使うなどしているとのことでした。

https://news.mynavi.jp/article/20171215-toyota_vr/

トヨタが進んでいる、熱心に取り組んでいるようで、さらには業界横ぐしでの取り組みを進めているといいます。トヨタと、日産自動車やマツダ、クボタ、日立建機などとARに関する取り組みを研究会で共有しているとのことでした。ARは、作業補助としても使われているようです。


こんな感じで、実際の車体に合わせて、インストラクションしたり、部品の名前を表示したり、ということができるとすごくいいんじゃないかということ。

まだ新しいテクノロジーを使ってプロセスと効果を検証中といったところだと思っています。トヨタで取り組んでいるひとは、エンジニアリング情報統括部という部門で、車の製造プロセスにおける、情報の管理を行う部門、、つまりはシステム部門ですね。結構現場に協力してもらわないと難しい作業なので、全社としてどれだけコミットできているかがトヨタにとっても課題でしょう。システム部門が業務プロセスまで変革するというのは、正直、あまり聞かない話です。

ほんとはこういうのは、現場の製造部門が主導してやらないとごにょごにょ・・。


※ちなみに、トヨタはMR(Mixed Reality)と呼び、ARやVRと分けて表現していますが、どちらかというと、ARの空間認識版、という感じなので、この記事ではARでまとめたいと思います。

こんな区別、MRは米マジックリープ社が言い出したことですが、ほかの会社はそういっていませんね。


2.米Canalysの調査

こちらでは、2017年3Qのおおきな動きを伝えています。また、メーカー別ランキングも一部紹介しています。

以下の図のとおり、2017年3QのVRの売り上げが初めてクォーターで100万台出荷に至ったとのこと、それを押し上げたのは、やはり1位のSonyのPSVRだということを報じています。コスト削減に各社も努力しており、PSVRとOculusが同じ399ドルで出荷されていますので、こういった努力も売り上げ拡大に繋がった様子。この3社で、VR市場は86%を占めており、寡占状態です。


https://www.canalys.com/newsroom/media-alert-virtual-reality-headset-shipments-top-1-million-first-time

2018年の売り上げ予測については、10倍に成長し、150万台の出荷。2021年には成長ペースは鈍化するものの、2倍で成長し、世界中で1000万台売れるようになるだろうと予測。北米市場がトップで、中国、アジア、EUが続くとみています。


https://www.canalys.com/newsroom/media-alert-standalone-vr-headset-shipments-top-15-million-2018-oculus-htc-and-lenovo-prepa

今年10倍膨れ上がると期待されているのは、スタンドアロン型のVRがすでに今年発表されているからです。Facebook傘下でVR大手よりOculus Go、VR大手のHTCもVive Focusを出荷予定。さらに、Lenovo、そして、Picoという会社もリリースを予定しています。



主な用途にも、上図の右下でふれています。

1.小売り、マーケティング
2.教育、研修
3.旅行
4.アミューズメント

ゲームには高いスペックが必要なので、おそらくスタンドアロンでは対応できないでしょう、その分、上のような、ゲーム以外の用途で、ケーブルなしで稼働できることが期待されているようです。

※ちなみに、これはVRのみの市場のため、載っていませんが、同じく夏には、米マジックリープのAR(MR)スタンドアロンデバイスも発売されると聞いています。マイクロソフトのホロレンズも、ディベロッパー向けには販売していますし、新作情報の話題は、今年は結構尽きないんじゃないかと思います。デザインについてはあれこれ言われていましたが、ホロレンズとかに比べると軽くて、スタンドアロンで、体の負担は軽そう。あとはスペックと、付属マシンの着け心地、ハンド操作の体験、、いろいろ気になるところです。
Magic Leap One

https://businessmonkeynews.com/ja/ja/%E3%83%9E%E3%82%B8%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%AF%E3%80%81%E6%B7%B7%E5%90%88%E7%8F%BE%E5%AE%9F%E7%9C%BC%E9%8F%A1%E3%82%92%E6%8F%90%E7%A4%BA/


3.雑感まとめ

AR/VRに関して最新の市場予測データを並べてみました。CanalysのデータはVRに閉じていましたが、IDCのはARも含んだデータでしたね。いずれも2021年をターゲットにしていましたが数値予測には大きな違いがありました。

IDCはARとVRといいつつも、市場シェアは9割以上がVR、そして2021年には6000万台出荷と予測。対してCanalysはVRについて2021年に1000万台出荷と予測しました。6倍差はなかなか大きいですね。。。IDCがぶちまけすぎている感がありますが、おそらくは、コンシューマーとエンタープライズの両面で普及すればこのくらい、ということでしょうか。

しかしVRは新しい付属品であって、従来の何かにとって代わるというものではないと思います。ウェアラブルやスマホのように、1人1台というのも考えにくいでしょう。急拡大する要因は私にはまだ読めませんね。

ただ、値段はどんどん安くなっている点は注目です。VRはPSVRも、Oculusも399ドルまで下がっていますし、HTC599ドルほど。一方で、ARはまだ1500ドル以上するものがほとんどですが、これも値下がりしてくるでしょう。

もし、普及の課題が「コスト」だけでしたら、今後の急拡大は望めますが、、。


もうひとつ、AR関連で今年夏7月にリリースされるヘッドセットデバイスを紹介しておきます。こっちのほうが可能性が、ポテンシャルは相当高いんじゃないかと思っています。

QDレーザー社

レーザーアイウェア

富士通研究所からスピンアウトした会社です。レーザー技術を応用した、視覚支援・強化デバイス、とも呼べるかと思います。目の網膜に直接デジタル映像を照射して映すという、人体とデジタル情報の合体、なんて言われています。期待されているのは、医療機器や人間の能力強化などだと思います。白内障などで、目が見えなくなった人も、この技術により、アイウェアのカメラ映像を網膜に照射すれば、見えるようになるというものです。カメラの拡大ズーム技術と併用すれば、さらに、遠くまで見通せるスーパー視力も手に入る、と考えられます。

実際のつけた感覚だと、特に照射されて痛みや影響があるわけでなく、少し離れたところに、テレビ画面があるような感覚といわれています。

実際のカメラ映像以外にも、デジタル情報を照射することができるので、インストラクションや、地図情報なども提供できそうですし、今までのディスプレイ体験とは似て非なるものなので、今後注目を集めていくと思います

これからはやりのスタンドアロン型(小型のPDA端末のようなものとグラスのセット)で、値段はまだ10万円以上するので、AR専用デバイスとどっこいですが、2019年には10万円前後にコスト削減していきたいとのこと。


その他、AR、VR情勢について、若干コメントを挟みますと、



先日ラスベガスでも、AR/VRは結構な展示があったようです。

一方、CES特集で注目されていたのは今回紹介したようなデバイスももちろんあったのですが、、、どちらかというと、ヘッドセットよりは、スマホ越しの、自動車のフロントガラス越しのARアプリが注目されているようでした


AR/VRを専用ハードウェアで見てしまうと、まだ、コストやケーブルなどの使い勝手、スペック、重さ、信頼性などで、難点が多く残っています。これらを全部、えんやこらしてすべてクリアするよりも、スマホ越しのARという使い方は非常に効率的です。

PSVRは、PS4と一緒に提供するということで、PS4があれば安定稼働するとしてハードウェア問題をだいぶすっきりとさせて、価格も抑えたので普及しました。しかし、やはりゲーム専用機なので、それ以上でもないというところですね。VRというより、ゲームハードウェア。


さらに、ソフトウェアの面でみると、VRもARも、まだまだといったところです。特に専用ヘッドセットディスプレイを使ったものは、足りてないといえるでしょう。

PSVRも拡充中ですが、HTCも、Oculusも、ソフトメーカーはあらゆる装置にも互換性のあるソフトを作らないといけません、これは結構大変です。ましてや、まだ、このデバイスを持っている人たちは、PSVR以外には、スマートフォンやゲーム機などと比べても、そう多くありません。

ソフト側は参入に足踏みしているといったところでしょう。

ゲーム以外の、教育やトレーニングなどに関してもそうです。基本的には、トヨタ自動車も含めて、なんとか自分たちで開発キットを使って開発している状況。汎用的なパッケージソフトはまだ完成していないし、どの業界も、それぞれがどのようにしたら、使えるのか、というのを模索中です。

VRソフト開発が得意なベンダーというのもはっきり見えない感じがします。ユーザー企業が自ら試行錯誤しているようですから。


すなわち、ソフトウェア開発の面でも実用で役立つまでのハードルが高い(業務プロセスまで変えなくてはいけないかも)、ソフトウェアが揃っていないのであれば、ハードウェアの普及もハードルが高いのだと思います。

そして、その両方とも既に広がっているのが、スマートフォンARです。VRもできますし。

なので、専用ヘッドセットにこだわらず、作りやすいもので、みなが持っているものを使って、ソリューションを提供する、そんなやり方が私はベストだと思いますし、CESのスマホアプリでもAR盛り上がりも、そういうことだと理解しています。


以上






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