中国投資家がシリコンバレーに感銘をうけなかった、という記事について

以下のタイトルの記事をウォールストリートジャーナルで見つけてどうゆうことだろうと気になったのでレビューしてみました。

新世代の中国起業家、シリコンバレー「いまいち」

フェイスブックの本社を訪れた中国のスタートアップ起業家や投資家たち(11日)
http://jp.wsj.com/articles/SB10806998528272603825204583646580187953710


サブタイトルは、イノベーションのメッカを訪れても感銘受けず、で、ライターの方も中国の方。By Li Yuan氏。2018年1月18日の記事だ。

そこで書かれているのは、彼らが回ってきたシリコンバレー巡業の内容と、中国との比較、そして、ツアーのコメントなどが書かれている。

プラン内容としては、中国の新興企業の創業者や投資家ら18人が「巡礼」の旅としてシリコンバレーでテスラの組み立てラインを見学し、アップルの幹部と対話し、ロシア人富豪でベンチャー投資家のユーリ・ミルナー氏の豪邸も訪れるなどしたようだ。

彼らはそれらを振り返って、こう締めくくっている。記事文中の言葉を借りると、


「中国が新興企業で、米国は大企業のようになっている」

「中国は非常に早いスピードで動き、微調整を続けながら前に進む。米国は安定したペースを保ち、研究開発にもかなり力を入れる。どちらが最終的に勝つかは予想するのは難しい」

「シリコンバレーが手本となり、その後を中国が一歩一歩追い掛けていく時代は急速に過去のものになりつつある」


などだ。

そして、その根拠として、アップルのレビュープロセスが遅いことや、中国ではモバイル決済や送金が日常化し、小売りのEC率もアメリカは10%に対し中国では20%で追い越していること、バイクシェアリングサービスが広がっていないこと、オフィスのセキュリティが顔認証でなかった、などをあげている。


さて、


気になる突っ込みどころが山のようにある。とりあえず私もシリコンバレーに住んでみて感じたことと合わせていくつかポイントを絞って突っ込みたい。


滞在期間

彼らはの滞在期間は「先週~」と書かれており、そのスケジュールから察するに数日かせいぜい1週間の旅行滞在だったと思われる。日本でもこの手の「巡業」は行われがちだが、その数日だけで、シリコンバレーを理解できるだろうか。少なくとも、日本人でこのような巡業している人は役員だろうと誰だろうと、あまり変わったという事実は私は見つけられていない。

シリコンバレーというエリアは、主に、マウンテンビュー、サンノゼ、サニーベール、サンタクララなどのGoogleやFacebook、Appleなどが集まる都市の集合地域を指す。地理的な範囲も広く、数日で足を止めながらそれぞれの町の特徴を把握しながら回っていくことも困難だ。


シリコンバレーの真の価値は膨大なスタートアップとアイデア、人材が世界中から流れこんできていること、ネットワーキングだと思う。これに入り込むには投資家やCVCとしてはいっても5年、6年はかかると言われている。投資や買収にせよ、起業にせよ、そのエコシステムの一部として実績を示して、シリコンバレーの村社会の評判が必要だからだ。


スピード・セキュリティ・クオリティ

書かれている内容ではアメリカのスピードの遅さを中国の起業家たちは上げている。まあ確かにビザとるだけでも3か月、銀行の口座やカード作ろうにも、1か月はかかるような国だ。ある面ではサービスが遅いといって差し支えないと思う。

ただ、スピードが遅いことに比例して、私が感じたことは、アメリカのセキュリティ管理の徹底ぶりだ。自由と見せかけて、裏では徹底管理し、泳がせておくスタイルをアメリカはとっている。移民の多いアメリカならではだと思う。メキシコからの不法移民は昔から黙認されつつも、安い労働力として使い、いざ事となれば強制退去や司法取引を持ち掛ける。自動車の事故もしょっちゅう見る。だからこそ保険の仕組みが徹底されている。

一方で、アップルのアプリ審査にみるように、アプリのレビュー審査でマルウェアなどがないか等のプロセスをしっかりやることもファンを魅了し続けるために、重要だ。なので、アップルへのレビュープロセスが遅いとの批判はユーザーサイドからすれば、ある意味もっともだが、アップルからすればブランドとユーザーを守るために行っている合理的措置だといえる。ファンを守ることで、結果的にはアプリベンダーも守っている。文句があるならば、Androidで出せばよいのだ。

なお、ビザ発給やクレジットカードの発行などでは、裏で様々な分析調査が行われているという。おそらく本人のほか、家族友人のプロフィールが、ブラックリスト入りしているメンバーとかかわりがないかなど、スノーデンの暴露で書かれていたようなデータベース検索が行われているのかもしれない。

こういった手続きは受ける我々も、やっている職員も、面倒さが半端ないのだが、そのセキュリティに対する周到さと徹底さに、アメリカのおそろしさを感じた。この国は自動車保険にせよ、医療保険にせよ、「何かトラブルは必ず起きる、だからそのあとの手当てをしっかりしておけばよい」という考え方が根底にある。

だからこそ、品質の面においては、もろもろ課題があると思う。ソーシャルレビュー評価などにもあるように、人によっていい、悪いがはっきりしていたり、Amazonでさえ荷物が届かなかったり、品物が腐っていたり、、そういうことが不通に起きて、その場合の対策マニュアルがしっかりしているのがアメリカだ。

品質のきめ細やかさでいえば、日本が随一かもしれない。日本になれると、アメリカのそれはいろいろと嫌な思いをしてしまうだろう。しかし、中国も品質面はアメリカと似たようなものではないだろうか*私は言ったことがないのでこれくらいしか言えないが



高層ビル街の中国 ふるいインフラのシリコンバレー



最近の深圳などのように、中国のイノベーティブな都市は最新の構想ビルが立ち並び非常に活況な場所だという。

一方、アメリカのシリコンバレーやサンフランシスコは古い建物がほとんどで、大きく綺麗な建物は大手の一部の新棟であろう。シリコンバレーエリアの建物は歴史が古く、せいぜい3階までのような低い建物が多い。その分ドライブするときの景観はなかなかのものだが。
サンフランシスコの建物は高層ビルも多いが、一部のカンファレンス会場などのぞけば古いものがほとんど。道路も狭く、交通は常にごみごみしている。また、歩道にはいわゆるルンペンの方々がちょっかいを出してくる(ニューヨークはもっとひどいらしいが)。


しかしながら、スタンフォード大学の巨大さと威厳には、50年以上も経過した古い建物にもかかわらず、驚かされた。

歴史と伝統のなかで、先人のイノベーション文化、スキルが今も形を変えて、この巨大なキャンパス内で、世界中から集まる生徒に根付いているのかと思うと、凄いことだと感じた。

中国は新しい分まだ若い、そして、それは彼らの好きな「歴史」が浅いということになる。
歴史を重んじる中国が、アメリカの歴史を軽んじるのはおかしな話だ。彼らは自国以外の歴史ももっと学んだほうがいい。むしろ、それが中国の弱点かもしれない。

シリコンバレーはIT革新発祥の地と言われるだいぶ前から、「ゴールドラッシュ」の地域としても有名だった。今もゴールドラッシュにかかるチーム名や地名などがそこかしこにある。(ちなみに、ゴールデンゲートブリッジはゴールドラッシュ前の命名なので、関係ないとのこと。)

一攫千金、そんな文化と伝統が今も根付いているようにおもえる。


短期的イノベーションか長期的イノベーションか

アメリカは気が長すぎる、中国のスタートアップはすぐに結果を出さないといけない。というのはなんとも見ていて面白い。そんなことができれば、みんなそうしている。それができたら苦労はしない。

中国の短期的なイノベーション発想は、私が考えるに、「これまでの成功体験」からきている。

それは世界の優れたサービスやテクノロジーの「学習・模倣*インスパイアとよぼうか」だ。中国はユニコーン企業、すなわち10億ドルの価値をたたき出すスタートアップをシリコンバレー並みに輩出するようになっているが、その多くは、アメリカのイノベーションを模倣したものが多い。DiDiは、Uberのライドシェアをインスパイアしたものだし、アリババも、ECやクラウドの両スタイルでのサービスも、Amazonのそれをインスパイアしたものといえるだろう。Baiduの検索はGoogleをインスパイア。Tensentのモバイル送金も古くからアメリカのPaypalやスクエアなどが行っていたサービスだ。まだそこまで大きな成功になっていないが、AirBnBをインスパイアしたサービスも多く中国で出ている。出前配送、UberEatなどに近いサービスも成長しているようだ。

一方、アメリカはアメリカで、「過去の成功体験」をもとに、長期的、短期的、両方のイノベーション活動を行っている

かつてのGoogle、Facebookがもっとも成功した例ではないだろうか。今や世界のビッグ4と言われている会社が、広告事業を見つけるまでの7,8年近くも無収入で、投資家からお金を調達して世界にサービスをしていたのだ。そして今も、量子コンピュータに不老不死の薬の研究、ハイパーループ、宇宙事業など、将来来るであろう革新的なテクノロジーやサービスの誕生に向けて、多くの投資家や起業家が、長期目線でお互いチャレンジリスクを負いながらも投資と開発を続け、すさまじいスピードで成長している。新しい技術の成長スピードという意味では、中国の追随は全く許していない。

対して、中国は学習して吸収し、自分たちのサービスとして発展させるスピードが速い。これは日本も追随できていないし、優秀でやる気の多い人材が多いのだろうと感じる。

なので、一概にアメリカは遅い、のんびりしている、というのは目指している成功モデルが違うので単純比較はすべきではないと思う。



さいごに

この記事とツアーの目的は中国の皆さんをアメリカに我々は負けていないぞと奮い立たせるというイベントだったのではと感じている。

その目的は中国国内での起業にもっと目を向けよ!中国に投資せよ!シリコンバレーより成長速いぞ!というメッセージだ。

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